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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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この地方に、冬が訪れた。陰鬱な季節の始まりである。来る日も来る日も、鉛色の雲が空を覆い、まるで灰色の牢獄に閉じこめられたようである。マルガレーテ姫はため息をついた。
「御気分はいかがですか。マルガレーテ姫。」侍従長のエステルバッハ伯が尋ねた。
「少し退屈なだけ。大丈夫ですわ。この季節にはいつものことです。」姫は答えた。
「それより、リーフェンシュタールの楽士達はいつ参りますの。」
「来月には。」エステルバッハ伯はいった。
「きっと、素敵な晩餐会になりますわ。皆様もお気に召すと思いますわ。」姫は晴れやかな顔をした。
 


楽士達がやってきた。
リーフェンシュタールの宮廷そのままの、粋な出で立ちであった。典雅な楽の調べ、吟遊詩人の語る古の物語、マルガレーテ姫は、その優雅な雰囲気を満喫した。詩人がゴートベルグ公を讃える詩を作った。珠玉の言葉にちりばめられた雅なできである。マルガレーテ姫は嬉しかった。公も喜んでいるに違いない。しかし、公は表情も変えず、短い労いの言葉をかけただけだった。
「お気に召しませんの?」姫は小声で聞いた。
「ああ、私はおべんちゃらは嫌いなんだ。」公は露骨にいやな顔をした。「へどがでそうになる。」
姫の顔を見て、流石に公もばつの悪い顔をした。姫は、ヘルマン一世の半生に思いをはせた。諸国を渡り歩き、文字通り戦場に寝起きした傭兵時代、ゴートベルグ公国のためセシリア・ヴァルバラ姫とともに戦いに明け暮れた日々。ゴートベルグ公夫妻には宮廷文化を育てる余裕など無かったのだ。そのことを、自分は考えもしなかった。姫は、今まで公に対してとった態度を思うと申し訳ない気持ちになるのだった。
 

 晩餐会は終わった。姫は、密かに中庭にでて楽士を待っていた。ローランドならこの機会を逃さず、自分への便りを託すはずだ。しかし、誰もやってこなかった。そんなはずはない。もしかして、ローランドの身に何かあったのだろうか。姫の心に不安が広がった。会いたい。何としても。そう思うと、姫は矢も盾もたまらなくなった。
「私、リーフェンシュタールに里帰りしてもよろしいでしょうか?ヴィルヘルム伯にもお会いしたいですし。」
ある日、とうとう姫はゴートベルグ公に切り出した。
「いいでしょう。」あっさりと公は許した。許されるはずもないと思っていた姫は驚いた。
「よろしいんですか?」
「ああ、だが、エステルバッハ伯を同行させる。それが条件だ。」
お目付役をつけるつもりなのだ。でもそれが何だというのだろう。姫は承諾した。
「姫と二人だけで話したい。」公は人払いをした。
「うまくいったな。」
「何のことですの」
「これであなたは、あの騎士に大手を振って会いに行けるというわけだ。」
姫は黙っている。
「しかし、私も我慢したかいがあったというものだ。」嫌みな言い方だった。
「はっきりおっしゃって下さい。」
「もし、あなたがあの若僧とよろしくやって来たとしてもすぐわかるからな。」
「何ですって?」
「我々が、床をともにしてないのは誰もが知っている。もし、あなたがあの騎士の種を孕んだとしても、俺の子だと誤魔化すことはできないってことさ。」
「なんてことを、私とローランドはそんな淫らな関係じゃないわ。」姫は悔しさで震えた。
「じゃあ、なんだというんだ。騎士道精神に乗っ取った貴婦人への愛だとでも。」
「そうよ。私たちは・・」
「くだらんね。」
「どこがくだらないというの。あなたに何が、」
「そんなものは絵空事なんだ。」公はにべもなく言った。
「もうなにも言うことはないわ。私も彼も淫らなことをする気などこれっぽっちもありません。あなたにはわからないのよ。」
 そう言いつつも姫は心が痛むのを感じた。確かに公のいうとおりなのだ。例え肉体的には何もなかったとしても、不実であることに代わりはなかった。
 リーフェンシュタールへ出立する日が間近に迫ったある日、姫は公の私室に立ち寄った。開いていた扉から中をのぞくと、公があのカーテンを開け中の絵を見ていた。誰の絵かはわからなかったが、公の真剣な様子に、姫は声をかける気になれなかった。
やはり、公の想い人の絵なのだ。
マルガレーテ姫はそう思った。そっと、部屋を離れた。なぜか胸に、鋭い痛みを感じた。


リーフェンシュタールへの道のりは期待と不安に満ちたものとなった。ローランドは一体どうしているだろう。姫は若い騎士のことを考えた。その時、エステルバッハ伯の顔色が冴えないことに気づき、姫は慌てて声をかけた。
「侍従長、疲れたのですか?お顔の色が。」
「何でも御座いません。」
「でも、」
侍従長は渋々訳を話した。実直なこの貴族は、ダンスが大の苦手であった。リーフェンシュタールの宮廷で申し込まれたらと考えると、夜もよく眠れないのであった。姫は、侍従長にダンスを教えることとなった。毎晩、懸命に踊るこの初老の貴族を見て、姫は初めてゴートベルグの貴族達の実直さ、生真面目さに心うたれたのであった。


一行は、リーフェンシュタールにようやく到着した。領民達の歓迎を受けた。ゴートベルグに旅だった頃のことを思い出す。二度と見ることは叶わないと想った故郷、そこに今帰ってきているのだ。姫は懐かしさに胸がいっぱいになる。
 
リーフェンシュタール城では豪華な晩餐会が開かれた。マルガレーテ姫が、戻ってきたのだ。誰もが、彼女の美しさを、聡明さを讃えた。繰り返される賞賛、気の利いた会話、華やかに着飾った貴族達、どれもゴートベルグでは見られないものだった。彼女が懐かしみ待ちこがれたものが、今、目の前にある。しかし、マルガレーテ姫は、違和感を感じずにはいられなかった。おべんちゃらは嫌いだ。そう言っていたヘルマン一世の声が聞こえてくる。
「花の中の花であられた麗しきマルガレーテ姫、あなたが去られてからここリーフェンシュタールは深き闇の帳に、久しく閉ざされておりました。」と若い貴族が姫に挨拶する。
彼は、姫の取り巻きの一人であった。彼の美辞麗句を聞きながら、マルガレーテ姫はむなしい気持ちに襲われた。彼の言葉は確かに耳に心地よいものであった。しかし、これは姫一人に向けられたものではない。ここの貴婦人になら誰にでも、彼は同じような言葉を述べるのだ。つくづく、かつての自分が愚かであったと思わざるを得ない。彼らの美辞麗句を真実の言葉と思いこんでいたのは、姫自身に他ならなかった。そんな姫の耳に、この貴族の声が聞こえた。
「麗しきマルガレーテ姫、白鳥の優美さ、春の精のたおやかさに勝るとも劣らぬ姫君が、あのようなむくつけき国に嫁がれ、私ども滂沱と流す涙の湖に溺れ、沈んでいたのでありまする。」
ヴィルヘルム伯とエステルバッハ伯が硬直するのを姫は感じている。
この愚か者。
姫は彼を怒鳴りつけたかった。この広間にいるゴートベルグの騎士を何と考えているのか。この貴族は何もわかっていない。ヘルマン一世ならば、すぐさま彼を窓から放り出したに違いない。しかし、貴族はさらに続けた。
「今宵は、かつてのように姫君のそのバラの花のようなつややかなる唇から、リーフェンシュタールの騎士の素晴らしさを讃えてもらいましょうぞ。」
ヴィルヘルム伯は顔面蒼白になった。そのヴィルヘルム伯を制してマルガレーテ姫は立ち上がった。エステルバッハ伯も固唾をのんでその場面を見つめている。
「リーフェンシュタールの騎士は、見目麗しく礼節深く慈悲深い、まこと騎士道の華と申せましょう。」リーフェンシュタールの貴族達は拍手喝采した。
それは、良く姫が戯れに口に出していた言葉であった。ヴィルヘルム伯は椅子に倒れ込みそうになっている。しかし、マルガレーテ姫はさらに続けた。
「ゴートベルグの騎士は、質実剛健にて武勇の誉れ高き、まこと国の柱となるにふさわしき騎士と申せましょう。いずれ劣らぬ天晴れな騎士、この二つの華が一堂に会す今宵は、まことに素晴らしき宴となりましょう。」
広間は万雷の拍手で埋まった。ゴートベルグの騎士も笑みを浮かべている。姫はヴィルヘルム伯とエステルバッハ伯の方を振り返った。二人とも汗ばんだ顔に安堵の笑みを浮かべていた。
ダンスが始まった。やはり、エステルバッハ伯はダンスを所望されている。姫は、伯をエスコートした。踊りながら、伯にささやいた。
「なかなか筋がよろしいですわ。」
「そうですか。」伯はほっとしたような顔をした。
緊張がほぐれたのだろう。エステルバッハ伯は他の貴婦人とも無難に踊っていた。マルガレーテ姫はひどく疲れていた。これほど張りつめた気持ちで臨んだ晩餐会は一度もなかった。
「マルガレーテ姫。」ヴィルヘルム伯が声をかけた。「すっかり変わられましたな。」
姫は顔を赤くした。「荒削りになりまして?」
「いいえ、名実ともにゴートベルグ公妃にふさわしい、威厳と気品を兼ね備えられました。」ヴィルヘルム伯はにっこりと笑った。
 
 その時、姫の眼に騎士ローランドの姿が映った。無事だったのだ。しかし、どこか様子がおかしい。何かが違う。姫は不安になった。晩餐会が終わり、姫は中庭にでた。かつてローランドを幾たびも逢瀬を交わしたあの泉水、そこに姫は佇んだ。
「マルガレーテ公妃。」昔と変わらぬローランドの声だった。
「ローランド。」姫は駆け寄ろうとした。
「来ないで下さい。マルガレーテ公妃。」
彼女は騎士を見つめた。頼りなげな顔、細い肩、こんなに線が細く弱々しげだったろうか。この若者のどこに、自分を引きつけた輝きがあったというのだろう。
「もう私のことはお忘れ下さい。」
そういうと、ローランドは闇の中に消えていった。
 
呆然としている姫に、ヴィルヘルム伯が声をかけた。
「ローランドには妻がおります。」
そんなはずはない。姫は怒りに震えた。
「ヴィルヘルム伯、あなたが彼に無理強いしたのですね。」
「滅相もない。ローランドは自分の意志で自分にふさわしい娘と結婚したのですぞ。」ヴィルヘルム伯は静かに言った。
なぜ、だが、その言葉は声にならなかった。
「人は変わるのです。」
そんなはずはない。私とあの人は永久の愛を誓ったはずだ。
「人は、変わります。それは、あなたも同じはずです。マルガレーテ公妃。あなたは、ローランドを見て感じたはずだ。頼り無げな騎士だと。でも、ローランドが頼り無くなったのではありません。彼はむしろ落ち着いた騎士になりました。なのに、あなたは頼り無いと感じた。なぜだか解りますか。」
解るわけがない。彼女はヴィルヘルム伯を見つめた。
「それは、あなたがゴートベルグ公と暮らしたからです。ゴートベルグ公は、確かに粗暴で冷酷かも知れない。しかし、武勇の誉れ高い当代随一の騎士のはずです。その騎士と、あなたはローランドを見比べたのです。彼が叶うはずがない。ローランドも同じだ。彼もあなたが去られてから、あなたと他の娘を比べたのです。」
「私は、その方より劣っていたのでしょうか。」姫は悲しかった。
「いいえ、違います。あなたはローランドにとっては眩しすぎた。憧れの対象だったのです。」闇の中にヴィルヘルム伯の声が響いた。
「マルガレーテ公妃。あなたも本当は解っているはずです。自分が誰と添い遂げるべきなのか。どこが自分のいるべき場所であるか。私は、先ほどのあなたの振る舞いを見てはっきり解りました。ローランドにも解ったのです。だからこそ、彼はあなたに別れを告げたのです。」
マルガレーテ姫はローランドの指輪を取り出した。片時も離さなかった指輪であった。それをヴィルヘルム伯に手渡しながら、姫はいった。
「ローランドに返して下さい。そして伝えて下さい。どちらの方となのかは存じませんが、どうぞお幸せにと。」
不思議なことに涙は出なかった。
 
 リーフェンシュタールでの滞在を終え、帰途についた。エステルバッハ伯を初めゴートベルグの騎士達は一様にほっとしているようだった。リーフェンシュタールとの国境を超えるとすぐに、姫は彼らに労いの言葉をかけた。
「マルガレーテ姫。誠のゴートベルグ公妃になられましたな。」エステルバッハ伯は彼女にいった。
「ヴィルヘルム伯と同じことをおっしゃいますのね。」
姫は笑みを浮かべた。しかし、次の言葉はヴィルヘルム伯とは違っていた。
「この上は、一刻も早く、誠のご夫婦としてお世継ぎを。」
姫は無言で頷いた。
 
 ゴートベルグ城につくと、姫はすぐ公に面会した。しかし、公は冷たくいった。
「で、どうだったんだ。あの騎士殿との逢瀬は。」
「もう、ローランドとは終わったんですわ。」
「じゃあ、私にどうしろと?振られたんでこっちに乗り換えるというのか?」
「そんなつもりじゃ、」
「とにかく、あなたに振り回されるのはごめんだ。出て行ってくれ。」
もう、終わりなのだ。
姫は呆然と退室した。
しかし、考えてみれば、これは全て自分がまいた種であった。セシリア・ヴァルバラ姫、そして先代のリーフェンシュタール公夫妻、彼らが政略結婚であっても真実の結びつきを得られたのは、その伴侶に対し誠実であったからに他ならない。自分は、公に対し誠実だったことがあったであろうか。常に、心の中でローランドを想い、公に対し心を開いたことは一度もなかったのだ。ローランドに対してもそうであった。まことに操を立てる気ならば、死を持ってそれを貫くべきだったのだ。
その夜、姫は眠れぬ夜を過ごした。体中が重く頭が割れそうだった。
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無題
今日、はじめてお邪魔致しました。
ヒストリカルロマンスとして楽しませていただきました。
ヒーローがちーとばかし年かさすぎるのが難といえば難ですが、実年齢がさだかにされていないのをよいことに、まあ、ぎりぎり30代の渋いダンディさまだろうと勝手に想像しております…(^^ゞ
ところで、5章と6章が、内容に重複している部分があるようです。
また、検索サーチからきたときはプロローグから入れたのですが、もういちど最初から読もうと、カテゴリから入ると、物語の末尾から…というのは、正直面倒で、読み辛かったです。
物語はとてもおもしろいのですが、ブログ小説を読みなれていない読者の中には、それだけで、Uターンしてしまう方も多いので、それはもったいないなと思いました。
更新を楽しみに、またうかがわせていただきます。
えいと 2008/08/27(Wed)10:29:41 編集
コメント有り難うございます
>えいと様

コメント有り難うございます。
初めてコメント頂いて嬉しくて舞い上がっています。
確かにヒーロー、年食い過ぎてますね(^^;A
渋~い、おじさまということで;;;

ご指摘頂いたところは今訂正しました。
本当に有り難うございます。
ブログのことも、確かに読みにくいので、あと一回で完結なので、この話が終わり次第、少し工夫をしてみます。
いろいろアドバイス有り難うございました。
2008/08/27(Wed)19:33:44 編集
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