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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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A市、F県の中心部にある古い城下町である。市の東側には広大なI湖がある。三方を山に囲まれた盆地に位置するため、夏は暑く冬は寒い。市の中心部に歴史あるA城がある。A城の近くに、坊ちゃん先生こと、長井聡一郎の赴任したA高校があった。もとは藩校にさかのぼる伝統ある男子校である。聡一郎もまた、A高で学生生活を送ったのであった。

懐かしい母校で、彼は教鞭を執った。学生時代、鍛錬に励んだ剣道部の門を、今度は顧問として、潜ることとなり、彼の感慨は一塩であった。後に彼は、厳しい稽古で「鬼の長井」の異名を取ることになるのだが、当時は、その片鱗を見せ始めた頃であった


一学期は瞬く間に過ぎ、I村の学校より、いくらか遅れて聡一郎の高校でも夏休みが始まった。
「長井先生。」ある日、学校の事務室で、聡一郎は呼び止められた。「手紙が来ていますよ。」
白い封筒に、幼い字で聡一郎の名前が書いてある。懐かしい筆跡だった。
「I村・・ケンタ達か。」
たった一年前のことなのに、何と、変わってしまったことだろうか。聡一郎は村での生活を思い出した。子供たちの澄んだ笑い声、宿直室での思い出、村人との交流、そして、海・・・
手紙には、子供たちの思いがいっぱい詰まっていた。少し背が伸びた子供たちの姿を彼は思い浮かべた。
「『中学になったら遊びに来る』か。」
その日が来るのが楽しみだと、彼は心から思ったのだ。
 
ある日、学校の道場での稽古がすむと、聡一郎は、菩提寺に向かった。長井家の墓に詣でると、祖父母がよくしていたように、草をむしり墓石を清めた。両親の眠る墓に線香を上げ花を供えると、彼は手を合わせた。短い黙祷を捧げると、彼は後ろを振り向いた。
「先生、こんちは。」
Yシャツ姿の学生が二人、立っていた。剣道部の学生だった。
「古森に津山か、お前達もお墓参りか。」
「こいつに、つきあわされたんですよ。」津山と呼ばれた学生が帽子を取りながら答えた。がっちりとした体格の少年である。頬のニキビを手で触りながら白い歯を見せた。
「触っちゃいかん。化膿するぞ。古森はひいおじいさんに会いにか?」
「そうっす。でも、やっぱりすごいっすね。そっと近づいたはずなのになぁ。」と、痩せぎすで背の高い少年がつぶやいた。
「いやしくも剣術を学んだものが、これくらい気づかないで、どうする?」聡一郎は苦笑いした。
「さあ、早く、お墓参りをした方がいい。この暑さじゃ、花がだめになってしまうぞ。」聡一郎は、手ぬぐいで汗をぬぐった。
二人は、手慣れた様子で、墓を整えた。手を合わす二人と共に、聡一郎も祈った。
「坊ちゃん先生も、おれの曾祖父さんのこと、知ってるんすか?」古森が聞いた。
「ああ、子供の頃よく遊んでもらったよ。戊辰の戦で、一番上の兄上は、二番目の兄上は、西南の役で・・が口癖だったな。」
「お前の曾お祖父さん、よくそういったって、うちの親父も言ってるよ。まあ、おれの親父だって、維新の奴らがって言ってるけどね。」
「戊辰戦争か。百年も前のことだな。」聡一郎は言った。
「たった百年前っすよ。坊ちゃん先生。」古森が大まじめに言った。
「その通りだな。」
古森は、もう一対、花を持っていた。
「おれ、もう一つ、行ってきます。」
「誰のお墓だい?」
「『一瀬伝八』だそうですよ。」津山がささやいた。
「二番目の兄上、古森真二郎殿の遺髪を届けてくれた方か。」聡一郎も頷いた。
「『大恩ある一瀬伝八殿の墓に詣でるのは、古森家の男の使命じゃ』が、曾祖父さんの口癖、おれも刷り込まれたみたいっす。」古森は笑っている。
三人は、一瀬伝八の墓に詣でた。
大役を果たしたためか、古森は饒舌になっている。
「全くこいつ、ちゃっかりしてるな。」津山が軽くこづいた。「俺にまでつきあわせやがって。」
「いいじゃんか。いいことしたんだぜ。」
 
「坊ちゃん先生、今度の大会、1回戦はF高校とでしたね。」しばらくして津山が尋ねた。
「そうだ。心配なのか。」津山の顔を見つめた。「平常心だ。平常心。」
「こいつ、ノミの心臓だからなぁ。練習だと強いんだけど、試合になるとからっきしだからな。」古森がからかった。
「しょうがないだろ。どうしたらいいんですか?」津山はもう青くなっていた。
「人の二倍も三倍も練習するしかないだろうなぁ。それより、坊ちゃん先生っていうのやめてくれ。」聡一郎はウンザリしたように言った。
「なんでっすか?着任式で、自分のあだ名、披露したの先生っすよ。」
「別に披露した訳じゃない。」聡一郎は顔を赤くした。
「照れちゃって・・」津山が笑った。
「先生、ポケットの手紙、彼女からっすか?」目ざとく見つけた古森が、おどけていった。
「これか?」聡一郎は、ケンタ達の手紙を取り出した。「I村の子供達からさ。」
「Iむら?ここに来る前の学校の子かぁ。なんて書いてあるんすか?」
「読んでみるかい?」
「いいんすか?」
二人に封筒を手渡した。
「うわ、へったくそな字!」古森が叫ぶ。
「失礼なこと言うな。お前だって、小学生の頃は、こんな程度だったろう。」
「ほんと、デリカシーがないよな。お前は。だからもてないんだ。」
「ちゃんと読んでやれ。子供たち、一生懸命書いたんだからな。」
二人は代わる代わる、子供達の手紙を朗読した。

「坊ちゃん先生、お元気ですか。
ぼくたちは5年生になりました。
ぼくたちも元気で一生けんめい勉強しています。
中学生になったら、先生のところに遊びに行こうと、4人で、そうだんしました。
先生の住んでいるところは、ずいぶん北にあるので、寒くありませんか?
おからだに気をつけて下さい。
さようなら          ケンタ        

この子は、宛名を書いた子ですね。字もきれいだし、しっかりしてそうだな。」

「こっちの子のは、汚い字だなあ。あっちこっちはみ出してるし、ごりごり書いてるから、消しゴムで消せてない、原稿用紙が真っ黒だな。でも、面白いこと書いてるぞ。
 
坊ちゃん先生、こんちは。
 先生がいなくなって、おれは学校がつまんなくなりました。
 しゅくちょく室に、いっても先生いないし、遊んでても、いないから、つまんないです。
 でも、ケンタたちとそうだんして、中学になったら、先生んちに遊びに行きます。
 そのために、おこづかいをためときます。
 かならず、あそびにくから、おれたちのこと、わすれないでくれ。
 わすれたらおこるぞ。     ゴロー            

ひっでえなぁ、脅迫してら。 」

「坊ちゃん先生、げんきですか。
 先生とうまつぶしやったりして遊べて、たのしかったです。
 しゅくちょくしつで、こわいはなし、してくれて、こわかったけどたのしかったです。
また、あそびたいです。
先生にいわれた算数をいっしょうけんめいやってます。
 やっと、つうぶんができるようになりました。
 こうこうせいのおにいさんたちと、先生はあそんでいますか?     サブ
 
この子に書いてやろうかな、『高校生のお兄さんたちは、剣道部で、坊ちゃん先生の地獄のしごきを受けて、毎日泣いてます』って」津山が楽しげにいった。
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