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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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その日の午後、4人はいつものように補給基地に集まった。

「一平お祖父さんもか。ウチの父さんも母さんも可哀想にって言ったきり何にも言わないんだ。」

「ウチのじいちゃん、二度と聞くなって怒鳴り散らすんだぜ。」ゴローは憮然としていった。

「母さん、インパール作戦っていってたよ。」


「インパール作戦かぁ・・もしかして、先生のお父さんってゼロ戦の操縦士だったんじゃないかなぁ。」少年がつぶやいた。

「きっとそうだぜ。グラマンと戦って撃墜されちゃったんだ。東隼人のお父さんみたいにさ。」ゴローが古本を見ながら言った。

「スカイ・キングみたいなのにやられたのかなぁ。」少年はゴローから手渡された「0戦はやと」のページをめくった。

「ビルマだったら陸軍だろ。ゼロ戦じゃないよ。隼だよ。」サブが木の上から声をかけた。

 

「我々の任務はインパール作戦について調査することにある。」ゴローが口を開いた。

「調査するって、どう調べるんだよ。じっちゃんも誰も話してなんかくれやしないさ。」

「う~~ん、じゃ、どうすればいいんだよ。」

「父さんが言ってた。わからないことがあったら図書館で調べろって。」

「図書館?勉強するのかぁ?やだなあ。」ゴローはとたんに情けない声を出した。

「図書館なんてここにはないよ。S市までいかなくちゃ。バス代どうするのさ。金無いよ。」サブも続けた。

「いい考えがある。」少年が目をきらきらさせながら、3人に耳打ちした。「夏休みの宿題を調べに行くって、言うんだよ。ケンタも一緒だって言えば、じっちゃん達、バス代ぐらいくれるかも。」

「そうだな、優等生のお前と一緒だったら、母ちゃんも信用するかもな。」ゴローも頷いた。

「よし、明日の朝、バス停前に隊員は集合。以上。解散。」隊長気取りのゴローが敬礼した。「はいっ。」サブと少年も敬礼を返す。ケンタだけがばつが悪そうにその場にたっていた。

 

夕食後、少年は祖父に切り出した。

「S市まで、何しに行くんだ。」一平はいぶかしげに彼を見つめた。

「夏休みの宿題なんだ。調べなきゃならないんだ。ケンタも一緒に行くんだよ。だって、ここには何にもないだろう?S市なら図書館もあるって、みんなが・・・」

少年はしどろもどろになった。自分が言い出したこととはいえ、一平老人を騙すのは気の引けることであった。一平の静かな眼差しの前で、彼は何もかも見透かされるような気がした。

「ほれ。」一平は茶箪笥を開けると、封筒から硬貨を2枚取り出した。「バス代だ。買い食いなんかするんじゃねぇぞ。」

じっちゃん、ごめん。
少年は心の中でつぶやいた。

 

次の日、少年はワクワクしながらバス停に向かった。子供達だけでバスに乗るのは初めてのことだった。バス停には、ゴローとサブが待っていた。

「ごめん、遅くなって。ケンタは?」

「あいつまだなんだ。ばれたんじゃないか?」

その時、ケンタが妹のミツ子を連れて現れた。

「ミッちゃんも一緒なのかい?」少年が話しかけるとミツ子は頷いた。

「どうしても母さんが連れていけっていうんだ。」ケンタがすまなそうに言った。

「いいじゃないか。バスがきたぞ。出発だ。」ゴローが元気よく叫んだ。

バスは、綴れ折りの道を車体を揺らしながら進んだ。猪首村が遠ざかっていく。夏の朝の湿り気をまだ含んだ道は、バスの中に心地よい山の空気を運んできた。峠にさしかかると彼方に猪首岬の全容をバスの窓から眺めることができた。

バスはS市の市街地に入った。舗装された道路に車が何台も走っている。商店街には、数多くの店が建ち並んでいた。子供達は夢中で辺りを見回した。

「そっちじゃないよ。」ケンタが苦笑している。「図書館はあっちだよ。」

大きな石造りの建物に子供達は入った。町のにぎわいとは別世界のように静まりかえっている。白いYシャツ姿の学生達が机に向かっていた。

「みんな勉強してら。」ゴローが気後れしたようにつぶやいた。

「こっちだよ。」ケンタは促した。
「どこに行くんだい?」少年が尋ねる。

「ここで本を探してもらうんだ。」カウンターにいる若い女性にケンタは頼んでいる。

「僕たち、インパール作戦について調べにきたんです。何か、本を貸して下さい。」

「あなた達、宿題やりにきたの?感心ね。こんなに小さいのに。」

ここで待つように、とその人は言うと奥に入っていった。やがて、何冊かの本を持って、彼女は現れた。その中の1冊をケンタに手渡した。

「これなら、写真も多いからあなた達でもわかるはずよ。」

ケンタは礼を言うと戻ってきた。

「向こうで調べようよ。」「お兄ちゃん、あたしも、ご本読みたい。」

「ミツ子の本も探してくるから、みんな先に調べてて。」

「あいつ、やっぱり、すげえなぁ。」ゴローは感心している。少年もサブも頷いた。

一番端の机に座って、3人はその本のページを開いた。子供達の歓声が響く。

「見ろよ。ゼロ戦だぜ。」「わぁ~、本物のゼロ戦の写真だ。カッコいいなぁ。」「迫力~。やっぱり写真だと違うね。」

3人は舞い上がった。ページをめくるたびに、彼らが本でいつも見ていた戦闘機や戦艦の写真が何枚も載っているのだ。彼らの憧れた世界がそこにはあった。戦闘機も戦艦も今にも写真から飛び出してきそうだった。発動機の音や、機銃の衝撃が伝わってくる。

「白黒なのが残念だね。ゼロ戦の機体の色がわからないや。」サブが話しかける。
「ああ、見ろよこれ。大和だ!ええっと、「大和の存在は秘密とされ、国民がその存在を知ったのは敗戦後である』だってさ。」

世界最強の戦艦の姿を子供達はため息をつきながら見つめている。

「みんな、いい加減にしろよ。」戻ってきたケンタが小声でたしなめた。

「何だよ。うるせえな。」ゴローが言い返す。

「みんな勉強しにきてるんだ。うるさくするとたたき出されるよ。」3人は顔を上げた。学生達が彼らを睨みつけている。3人は慌てて、小声で話し始めた。

「大体、お前らが騒ぐからだぞ。」「ゴローだって。」「しぃ~っ。声がでかいよ。」

口に手を当て、目を輝かせながら、時のたつのも忘れて子供達は写真に見入っている。あたかも、自分がゼロ戦を操縦しているような錯覚に陥っているのだ。急降下するときの爆音や敵戦闘機の機影、隊長機からの無線、機体にかかる風圧、加速度、操縦桿の重み、それら全てを感じていた。その時、彼らは皆、大空のサムライであったのだ。

 

「いつまで見てるんだよ。」ケンタの声で我に返る。「全然進んで無いじゃないか。早く調べようよ。」

「堅いこと言うなよ。まだ時間はあるぜ。」ゴローは不服そうだ。

「バスがなくなるよ。早く。」

「わかったよ。」少年が渋々賛成した。「目次を見ればいいんだ。すぐ調べられるさ。」

「ほら、大戦末期・レイテ海戦・・・え~~と・・・・インパール作戦・・あった。結構有名な作戦みたいだ。」

「早くしようよ。」ケンタがせかす。

「インパールはインドの辺境にあり、インド、ビルマ間の要衝として・・ようしょうって何だ?」

「おい、そんな説明、もう、どうでもいいから写真だけでも見ようぜ。」

少年はページをめくった。そこにある写真を4人は食い入るように見つめた。

 

 

子供達は、意気消沈した様子で図書館を後にした。

 

銀行の時計が12時半を指していた。真夏の日差しを浴びながら、彼らは呆然と佇んでいる。ツクツクホウシの声がひどく遠くに聞こえ、にぎやかな町並みも白っちゃけて見える。

「お兄ちゃん、お腹空いた。」

小さなミツ子がケンタの手を引っ張った。その声に促されるように、彼らは駄菓子屋に入り、甘食を頼んだ。ぼそぼそした感触が口の中全体に広がり、味が全くしなかった。ミツ子だけがおいしそうに甘食を食べている。

「のど乾いた。お兄ちゃん。」「ラムネ、下さい。」

ミツ子の分だけラムネを買うと、彼らはバスを待った。程なく、バスがやってきた。

バスが動き始めてから、お金が足りなくなっているのにみんな気づいた。

「買い食いしたからだ。」

いつもの彼らだったら、もっと騒いだだろう。しかし、今日は奇妙なほど冷静だった。何もかもが曇りガラスを通したように霞み、虚ろに思えた。

「どうする?」

「どうするって、どうしようもないよ。」

「ケンタとミッちゃんは村まで帰れ。俺たちは、途中で降りる。」

「でも、」
「こいつの言うとおりだぜ。ミッちゃんの足じゃ、村まで歩けないよ。」

「ごめん、みんな。」「いいんだよ。」

峠の途中で3人は降りた。炎天下の上り坂を彼らは歩いた。陽炎が立ち上り、汗が噴き出してくる。眩しいほどの日差しのなか、3人の表情は暗かった。

「のどが渇いたよぅ。」サブが情けない声を出した。

「我慢しろ。」ゴローがつぶやく。

「ひもじいよ。坊ちゃん先生のお父さんもひもじかったんだろうか。」サブが泣きそうな声になった。

「こんな程度ですむもんか。もっとずっと苦んだんだ。餓死だって・・」少年が首を振る。

「みんな死んでた。骸骨みたいになってたぜ・・」

「ああ・・」少年は頷いた。白骨・・街道・・だって・・」

図書館で見た写真が3人の脳裏に甦ってくる。

「あの兵隊さん、目を開けたまま死んでたな・・」ゴローが肩を落とした。

急に、サブが道にしゃがみ込み、戻し始めた。サブの背中をさすってやりながら2人は声をかけた。

「だいじょうぶか、サブ。」「お前も、バスで村まで行かせればよかったな。」

「ごめんよ。ごめんよ。」サブは泣きじゃくっている。

「泣くなよ。頼むから。」そう言いながら、2人の目からも涙がこぼれてきた。

「あっちの木のとこに行こう。」指さした少年の視界も涙でかすんでいる。

 

彼らは木陰にしゃがみ込み、涙をぬぐった。ぬぐってもぬぐっても涙があふれてきた。

木立の中からは、蝉時雨だけが聞こえてくる。

しばらくして3人はまた歩き始めた。真夏の日差しが容赦なく背中に照りつけた。どこまでも青く澄んだ空が広がっている。やがて前方に、村の岬の姿が現れた。岬の向こうには、大海原が広がっている。

雲一つ無い夏の昼下がり、少し伸びた自分の影法師を見つめながら、3人は押し黙ったまま、村への道を歩いていった。


第1話    完

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