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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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二週間近い漂流の後、一平達は奇跡的に、駆逐艦に救出された。彼らはF島の海軍基地に搬送された。ここで、一平に特務大尉への昇進が伝えられた。

「吉崎特務大尉。ご昇進おめでとうございます。」

坂口兵曹長にそう言われ、一平は苦笑している。何が特務大尉だろうか。聯合艦隊には、乗れる艦はもう殆ど残っていない。乗る艦もなく、何処が海軍なのだろうか。

「まさに陸に上がったカッパだな。」一平は兵曹長にぼやいた。「こんな事なら、航空兵にでもなっておくんだった。」

「飛んでいるのは、敵機ばかりですよ。」坂口兵曹長が、慰めた。

あの海戦で、空母機動部隊は全滅した。大和は健在だったが、航空戦力が壊滅している以上、あの戦艦も持てる力を発揮できるとは思えない。また、警戒警報が発令された。守備隊は、高射砲を撃っている。敵は悠々と旋回し、四方に爆弾を投下した。こちらに戦闘機が無いことをよく知っているのだろう。一平は塹壕から空を見上げた。

 

五助は、カッターで同乗した主計兵と食料探しをする羽目になっている。機雷封鎖されたため、補給が殆どできなくなっているのだ。内陸部の陸軍守備隊はもっと深刻だという。ここが、餓島(ガダルカナル島)と化すのも時間の問題だろう。

「なんでも、」その主計兵は続けた。「餓島の守備隊は、死にたくない一心で戦友の遺体に付いたウジ虫まで食ったって話だからなぁ。」

ガダルカナルの地獄は、五助達にも伝わってきた。しかし、それ以上の地獄が各戦線で展開しているのを、彼らは知らない。帝大農科出だというその主計兵は、植物図鑑を片手に持っている。野菜代わりになる野草を取るにしても、毒草をとったらお終いである。二人は、取った草や木を一つ一つ、その図鑑で調べているのだった。

「こんなことなら、もっと牧野さんの講義を真剣に聴いとけばよかったよ。」何しろ彼の判断ミスで、基地の全員が命を落とすかも知れないのである。責任は重大だった。

「腹減ったなぁ。」

五助は厳島での食事を思い出す。今考えると随分贅沢な食事だった。缶詰の肉が食べたい。オムレツも・・・夢に出てきそうだった。せめて新鮮な魚でもと思っても、湾内の食用になりそうな魚は全て取り尽くし、残りは毒魚ばかりである。

「こいつあ、良いものがある。」

主計兵が朽ち木をひっくり返している。髄に無数の穴があき、そこから、五助の中指ほどもある大きな地虫が顔をのぞかせている。

「なんだよ、これ。」五助はぞっとした。

「多分鉄砲虫だ。」主計兵は事も無げに言う。「上手いんだぜ。」

「冗談言うなよ。」

「本当さ、俺は信州の人間なんだ。イナゴと同じで食えるんだよ、これ。それに、あのファーブルだって食べてるんだぜ。」

「こんなもの食えるもんか。」五助は怒り出した。

主計兵は言った。「じゃ、お前、ウジ虫にするか?」

なお御免だ。

「取るの手伝ってくれ。蜂の子も取っていこう。」

五助は仕方なく、その大きなウジ虫に手を伸ばした。

その日の夕食は、変わっていた。菜飯ともに不気味な芋虫の煮物が出てきた。

「なんだこれは。」坂口兵曹長が苦笑いした。

「ジャングル菜飯と鉄砲虫の砂糖醤油煮であります。」主計兵が答えている。

「大丈夫なのか?」

「はっ。私と中村一等水兵で、毒味を致しました。」

みんな恐る恐る口に運んだ。しかし、主計兵の言った通り、その芋虫は柔らかく脂がのってとても旨い。久しぶりに食事らしい食事を取った気分になった。

「言った通りだったろう。」主計兵は得意げだ。五助も夢中で食べている。

「また頼むぞ。」坂口兵曹長が、二人をねぎらった。二人は敬礼した。

しかし、そうも言っていられない事態になった。マラリアに罹患したのである。十分注意していたとはいえ、ジャングルを歩き回ったことが原因だった。



五助と主計兵は、むっとする暑さの中、毛布を頭からかぶって振るえている。

「キニーネはないのか。」

吉崎特務大尉は軍医に聞いている。補給が絶たれたため、殆ど残っていないらしい。

「がんばれよ。お前達。」特務大尉は若い兵士に声をかけた。

死んでたまるか。せっかく助かったのに。五助はそう思った。おそらく隣の主計兵も同じだろう。熱帯では当たり前の病気とはいえ、マラリアに罹る兵士が増えてきた。こんな状態で米軍が攻撃してきたら、全滅は必至だ。

坂口兵曹長が、マラリアに倒れた。五助達のような三日熱マラリアではなく、高熱が何日も続く悪性マラリアだった。これに罹ったら助からない。軍医は特務大尉に説明した。

「死ぬなよ。」一平はそう言ってやることしかできない。

熱にうなされながら、兵曹長が何か言っている。吉崎特務大尉は口元に耳を近づけた。

「主砲・・・発射・・・準備・・完了・・・」

厳島に乗っている夢を見ているのだろう。一平は思わず声を上げた。

「主砲発射、目標、敵機動部隊。」

「発射・・・」かすれた声で部下は答えた。

「全弾命中、敵艦隊、撃沈。」

坂口兵曹長は満足げな笑みを浮かべた。それが、その準士官の最期だった。


兵曹長が亡くなって三日後の夜だった。突如、轟音とまさに地震のような揺れが襲ってきた。ロケット弾が守備隊の司令部に打ち込まれた。

「総員退避」

五助達傷病兵を塹壕に搬送するのが精一杯だ。米軍は一気に基地を壊滅するつもりらしい。こんなことなら、一平は思った。あの時、サメに食われた方がましだったかも知れない。どうせ死ぬのなら、艦の上で死にたい。

米軍から、投降を促す呼びかけが聞こえてくる。

「降伏して下さい。」軍医が、守備隊隊長に頼んでいる。

「我々は傷病兵を抱えています。野戦では、彼らの命はおそらく持たないでしょう。米軍は捕虜に対しては比較的寛大な処置を執ると聞いています。これ以上、無駄な犠牲を出さないで下さい。」

その進言は聞き入れられるはずもなかった。

次の日、隊長は、基地の陸戦隊の兵士全員に招集をかけた。

「我々は、これから、総攻撃を開始する。」

まともに戦って勝てる相手ではない。総員玉砕せよとの命令にほかならない。短い演説の後、彼は、軍医と矢崎特務大尉に後を託した。隊長と陸戦隊は米軍に向かって突撃した。米軍兵士の自動小銃の一斉射撃が行われ、後は静寂に包まれた。

40度の高熱にさいなまれながら五助が一平に頼んだ。

「吉崎特務大尉、私も攻撃に加えさせて下さい。生きて虜囚の辱めを受けず・・です。立派に戦って死にたい・・」

死を軽々しく口にするな。一平はそう言いたかった。死にたくない。故郷に帰りたいと思うはずなのに。若い兵士の態度が痛々しかった。こんな状態においておけば、彼も長くはないだろう。しかし、我々に選択の余地はない。こうなっては、戦って潔く死ぬほかに無いのだ。

「吉崎特務大尉。」軍医が話しかけた。「何度でもいいます。降伏して下さい。隊長が亡くなった今、特務大尉が最高指揮官です。ここの兵士達の命運はあなたの判断に罹っています。」

一平は首を振った。

「我々は軍人だ。軍人としての任務を全うする。」

「私は、軍人である前に医者です。医者として申し上げます。目の前にいる病人を放っておく訳にはいきません。この体で戦える兵士が何人いますか。その病人に戦えとあなたは命令されるのですか。」

確かに軍医のいう通りだった。隊長が我々を残したのは、後の判断を任せるということではなかったのか。それならば、自分の判断で最善を尽くすべきなのだ。最善を・・・

米軍の陣地からは投降勧告が続けられている。



次の日、一平は残った兵士達を集めた。いよいよ最期の突撃があるのだろう。五助はふらつく体をあの主計兵と支え合いながら整列した。

「我々は、米軍に降伏する。」耳を疑うような言葉が、吉崎特務大尉の口から飛び出した。

「バカな、我々はまだ戦えます。」五助が絞り出すようにいった。

「そんな体でどう戦うというのか。戦っても全滅するだけだ。今は命を惜しめ。」

「どうせ死ぬなら、戦って死にます。」

「バカ者!!お前が死んだら、砂知川一等水兵の遺品はどうなる!」特務大尉は一喝した。

その言葉に、五助は動揺した。あの夜の海で危険も顧みず、遺品を取り出したのは、せめて、遺品だけでも家族の元へと思ったからではなかったか。一平の言葉に、他の兵士達も故郷に残した家族を思い出した。

「いいか、お前達、戦って死ぬよりも、おそらく生きることの方が大変だろう。だが、生きていれば、必ず良い目を見ることもあるだろう。今は辛くても生き抜け。それが、死んでいった戦友への、せめてものはなむけになるはずだ。」彼は兵士達を諭した。

「有り難うございます、吉崎特務大尉。これで多くのものが救われるでしょう。」

だと良いが。一平は懐疑的だった。

「使者には私がたちます。」軍医は続けた。

「いや、あなたは医者だ。病人にはあなたの力がまだ必要だ。私が行く。私に万が一のことがあれば、今度はあなたが、兵達を守ってやって下さい。」

「特務大尉。私が行きます。」兵士達は口々に言った。

「いや、率先垂範が海軍士官のモットーだ。あとは、皆頼むぞ。」



日本海軍の守備隊の攻撃がやんでから丸1日がたっていた。投降勧告に答える様子は見えない。守備隊は前日の突撃で全滅したようだった。もう、誰も残っていないのだろう。いつもの事ながら、アメリカ海兵隊の兵士達は暗澹たる気分になるのであった。日本軍との戦いは皆同じだった。サイパンで、テニアンで、ニューギニアで、やせ細った兵士達が、自暴自棄の突撃で全滅するか、基地内で自殺するかで終わるのだ。何故、降伏しないのか。何故、自殺で終わらすのか。彼らには理解できなかった。

その時、基地の斜面から、一人の海軍士官が出てくるのが見えた。銃ではなく、白旗を掲げながら・・

降伏するのか・・・それとも、また、罠なのか 

白旗を降伏の印と信じて、だまし討ちにあった仲間が何人いたことだろう。海兵隊の兵士達は、日本兵の狡猾さを身にしみて知っている。あの海軍将校も何を考えていることか。兵士達は、指揮官の判断を仰いだ。金髪碧眼で顔立ちの整った、まだ若い陸軍士官である。彼もまた、その日本兵を見つめた。



 

 
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