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二次創作およびオリジナル小説(幕末~太平洋戦争と、ロマンス)や、歴史に関することなどのブログ
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  リーフェンシュタール公国は、三方を山に囲まれた扇状地に発達した国である。領土は狭いながら、温暖な気候と肥沃な土地に恵まれていた。リーフェンシュタール公国の特産物というと葡萄酒があげられるであろう。キプロス産のものにも劣らないという名声は遠くローマまで伝わっていた。公国の南の国境はゴートベルグ公国である。この地方随一の強国であり、また、海洋貿易の拠点を抑えるゴートベルグとの関係は、微妙なものであったが、代々の領主の外交手腕により、ここ百年ほどは友好的に推移しつつあった。

 しかし、ここに来て情勢は一変しつつある。

 ゴートベルグ公国恒例のお家騒動に端を発した内紛は、思いもかけない事態となった。もともと、大国であったゴートベルグ公国には、大貴族達の争いが絶えず-それが、リーフェンシュタール公国には幸いとなっていたのだが-傭兵隊長達の稼ぎ場と化していた。その中の、ヘルマンという若者が、ときのゴートベルグ公の娘婿におさまった。公の急死-これもヘルマンによる毒殺との風評が高い-により、ゴートベルグ公となったヘルマンは、時を移さず大貴族達を全て粛正、領土のほとんどを公の直轄地としたのであった。「ヘルマン残虐公」、あるいは「血のヘルマン」と異名をとる、ヘルマン一世の誕生であった。今から、十八年前のことである。

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リーフェンシュタール城では、今、群臣達の会議が始まったところであった。

「ヴィルヘルム伯。このような条件をのめとおっしゃるのですか。」誰かが叫んだ。「それでは、あまりに・・」

ヴィルヘルム伯は気品のある顔立ちを曇らせた。白髪のかかった額に苦悶のしわが寄る。

「しかし、他に方法はない。もし、拒絶すれば、リーフェンシュタールは焦土と化すだろう。」

「戦わずして、このリーフェンシュタール公国を手中に収めようというのか。何と狡猾な・・」若い貴族が叫んだ。

「黙らっしゃい。そもそも今度のことは、みんな、そなた達の短慮から起きたことじゃ。」

ヴィルヘルム伯は一括した。

「傭兵上がりのあの男に、そなた達が叶うはずもないだ。それを挑発に乗りおって・・」

貴族の一人が怒りの声を上げた。それを遮るように、ヴィルヘルム伯は続けた。

「もう良い、覆水盆に返らずじゃ。だがどうあっても、マルガレーテ姫には、」

「いやです。」

 

 

中央の玉座に座っていた若い姫君は叫んだ。栗色の髪が豊かにうねり、生き生きとした瞳の印象的な美しい乙女である。華奢ですらりとした姿、全身を包む紫の衣装は色白の肌に良く合っていた。その乙女が、今怒りに震えながらヴィルヘルム伯を見つめていた。

乙女の名はマルガレーテ。彼女は、先代のリーフェンシュタール公の一人娘であり、公国の正当な王位継承者であった。


 無理もない。

 ヴィルヘルム伯は、美しい姪に科せられた運命に同情した。このように美しい乙女、花の盛りの姫をあの傭兵上がりの人身御供に捧げるとは、しかし・・

「あのような年上の方の所へ嫁ぐなど、私は、私は・・」

「しかし、姫、二十や三十、年の離れた夫婦など、世間にはいくらでもございます。」

「いやです。私には・・」マルガレーテ姫は言葉を飲み込んだ。

「リーフェンシュタールのためですぞ。聞き分けてもらいますぞ。今のそのご様子を亡き兄上が見ればさぞ、」ヴィルヘルム伯も必死だった。

「お父様が生きておいででしたら、このような恐ろしいことは断じてなさらないでしょう。」そう叫ぶと、マルガレーテ姫は外に飛び出した。

「姫!」慌てる群臣達をヴィルヘルム伯が制した。

「マルガレーテ姫は、ご自身の本分は十分、解ってらっしゃる。」

 

 マルガレーテ姫は、中庭に佇んでいた。辺りはすでに暗くなり、月が煌々と照らしている。月の光で、姫の顔はいっそう蒼白く見える。

 断ることなどできるはずもない。でも・・

 マルガレーテ姫はヘルマン一世を嫌悪していた。初めて公と出会ったときのことを思い出す。忘れもしない五年前の、新年祝賀会の席上だった。十三歳になったばかりの姫が公と初めて出会ったのは。あの時、不躾な視線を感じて振り向いた彼女の目が、ゴートベルグ公の姿をとらえた。質素な黒い服に身を包み、群を抜いて背の高い、逞しい体つきの男であった。獲物をねらう猛禽のような風貌、彼女の知っていた貴族達とは全く違う、戦場の匂いのする騎士だった。公は姫と目が合うと、薄い笑いを口元に浮かべながら、会釈した。あの冷酷な眼差しが忘れられない。その瞳を思い出すと、今でも全身が総毛だった。あの絡め取るような薄い銀色の瞳、どんな猛獣でも、もう少し優しい瞳をしているのではないか。

 そんな殿方と私は・・


「マルガレーテ姫。」品の良い若い男の声がした。

年の頃二十ぐらいの、アポロンのような美しい騎士が泉水のそばに立っていた。

「ローランド。」彼女は騎士に駆け寄った。月明かりの中で互いを見つめ合い、抱擁を交わした。

「よくご無事で・・」騎士の胸に顔を埋める。

「許して下さい。少しでも、あなたにふさわしい男となろうと、それがあなたを」

 騎士の顔が苦悩にゆがむ。二人は、前から思い合う仲であった。しかし、一介の騎士に過ぎないローランドは、世継ぎの姫にふさわしい相手ではない。彼は、焦った。この焦りが、無謀とも思えるゴートベルグ進撃に、彼を駆り立てたのであった。

「良いのです。もう、何も・・」

 騎士は、姫をきつく抱きしめた。甘美な口づけ、柔らかな髪、少年の面差しの残る頬。今宵限り、もう二度と、この腕に抱かれることは叶わないかも知れない。姫は騎士の抱擁を受け入れた。

「連れて行って、私を、どこか知らないところへ」姫はつぶやいた。

「マルガレーテ姫?」一度口に出してしまうと、姫の決心は固まった。

「二人で、どこかに。あなたさえいて下されば、私は・・」栗色の瞳が騎士を見つめた。

 騎士は、しばらく見つめていたが、やがて頷いた。

「解りました。では、いつ。」

「今、すぐに。」騎士は、驚いている。「遅くなればなるほど逃げられなくなりますわ。さあ、速く。」
姫に気圧されるように、騎士は答えた。

「では、参りましょう。マルガレーテ姫。」

 
 その時だった。



「命令違反の上に、脱走か。男の風上にも置けぬな。」低い、威圧的な声がした。
「何者!」腰の剣に手をかけながらローランドが叫ぶ。
それに答えるように、月明かりの中、人影が浮かび上がった。上背のある姿、高い鷲鼻、鋭い瞳、
「ゴートベルグ公!」
「マルガレーテ姫?では、この騎士が・・」
思いもしない侵入者に二人は呆然としている。
「これは、どうも。マルガレーテ姫。覚えていていただき、光栄だ。」
にこりともせずにゴートベルグ公はいった。粗野な口ぶりは姫の嫌悪感を増幅させた。
「なぜ、あなたが?」
「未来の花嫁の姿を見に来たといったところかな。」
「無礼な・・・・私は断じてあなたのものになど・・」
「申し出を断るというのかな。」
「その通りですわ。」
「後悔しますぞ、マルガレーテ姫。」
「後悔するのは、あなたの申し出を受け入れたときですわ。」
ヘルマン一世は含み笑いをした。
「何が可笑しいのです。」
「お気の強いことだ。だが、いずれにしろ、あなたは私のものになるんだ。申し出を拒否すれば、それこそ戦利品としてね。どちらが姫の名誉を守れるか、とっくりと考えてみるんだな。」
「私を脅すつもりなのね。」姫は怒りで言葉が続かない。
「これ以上姫様を侮辱すると、この私が」ローランドも怒りで震えている。
「『この私が、』なんだね、騎士殿。」小馬鹿にしたような口ぶりだ。
「黙れ。無礼者。姫の名誉にかけて、貴様に決闘を申し込む。」ローランドが剣を抜く。
ヘルマン一世は唖然としてマルガレーテ姫を見た。
「もう少し、ましな男を恋人にすればいいものを。」
「黙れ!」
二人の騎士は剣をかわした。金属音が中庭に響き渡る。ローランドの剣は速く鋭い。ヘルマン一世は、騎士の剣を辛くも交わしていた。マルガレーテ姫は固唾をのんで決闘の成り行きを見守っている。ローランドが勝ってくれたら、自分は救われる。神は決してゴートベルグ公のような、卑劣な男をお許しになるはずがないのだ。
神よ、どうかローランドをお守り下さい。
その時、嘲るような公の声がした。「なかなかの腕前だな。」
「何?」
「もう、遊びは終わりだ。」
次の瞬間、ローランドの剣がはじき飛ばされた。若い騎士の体が宙を舞い、地面にたたきつけられる。ヘルマン一世は仰向けに倒れた彼の首に剣を突きつけた。
「好きにするが良い。」ローランドの完敗だった。
「好きにさせてもらおうか。」公が冷然といった。
「止めて、止めて下さい。」マルガレーテ姫は思わず、公の前にひざまずいた。
「敗者の運命は、勝者の手に委ねられる。決闘の決まりだ。」公は、素っ気なくいった。
「マルガレーテ姫、止めて下さい。」組み敷かれたまま、ローランドがうめくようにいった。
最愛の人、ローランド、彼を失ったら自分は生きてはいられない。
「どのようなことでもいたします。ですから、ローランドの命だけは・・」マルガレーテ姫の眼から涙があふれ出した。
「では、申し出を受け入れるのか。」
姫は頷いた。
「声に出して誓いなさい。『私は、ゴートベルグ公の結婚の申し出を受け入れる』と。」
冷酷な言葉だった。マルガレーテ姫は涙をこらえ、口を開いた。
「私は、ゴートベルグ公の結婚の申し出を受け入れます。」
小さいが、しっかりとした声だった。
これ以上醜態をさらし、相手に見くびられてなるものか、姫の心は怒りに震えた。この先、どんなに辛いことがあっても、この男の前では、決して涙を見せはしない。姫は歯を食いしばり心に誓った。
 
騒ぎを聞きつけたのか、ヴィルヘルム伯達がかけつけてきた。伯は、中庭に立っているヘルマン一世の姿に仰天した。
「ヘルマン一世、どうしてあなたが。」
「ヴィルヘルム伯、嬉しいことに、今マルガレーテ姫が、私の申し出を快諾してくれましたよ。」ヘルマン一世は平然といった。
何と白々しい態度であることか。姫は悔しくてたまらない。
「本当ですか?マルガレーテ姫?」ヴィルヘルム伯は不審そうな顔をしている。
ヘルマン一世が、目配せした。姫は、胸がむかむかしてきたが、努めて平静を装って答えた。
「ええ、その通りですわ。私、ゴートベルグに参ります。」




 

マルガレーテ姫が、ゴートベルグ公国に嫁ぐことが決まり、リーフェンシュタール公国の領民は悲しみに沈んだ。人質として敵国に行かされることは誰の目にも明らかであった。人々は、若く美しい姫の苛酷な運命に涙した。

 「お気の毒な姫様・・」
 「リーフェンシュタールのために、犠牲になられて・・」
 それは、城内でも同じであった。廷臣達は事あるごとに、その言葉を口に出した。
マルガレーテ姫は、ゴートベルグ城の晩餐会には飽き飽きしていた。飲んで騒ぐだけの騎士達、貴婦人のマナーもリーフェンシュタール公国のそれに対して明らかに劣っていると思われた。どうして、こう、武骨者ばかり集まっていることか。かつて、老臣達から聞いていた華やかさはみじんもなかった
 マルガレーテ姫がゴートベルグに嫁いできてから、数ヶ月が過ぎた。公は、あの一夜以降、彼女を求めようとはしなかった。昼間は精力的に執務し、夜は寝室まで彼女を送ると、そのまま自分の部屋に引き上げた。私室で何をしているか、姫には解らなかった。おおかた女官か貴婦人と・・そう思うと姫の頬が染まる。あの男が何をしようと自分には関係ないはずだ。いっそこのまま、放っておいてくれればと、彼女は思うのだった。
この地方に、冬が訪れた。陰鬱な季節の始まりである。来る日も来る日も、鉛色の雲が空を覆い、まるで灰色の牢獄に閉じこめられたようである。マルガレーテ姫はため息をついた。
「御気分はいかがですか。マルガレーテ姫。」侍従長のエステルバッハ伯が尋ねた。
「少し退屈なだけ。大丈夫ですわ。この季節にはいつものことです。」姫は答えた。
「それより、リーフェンシュタールの楽士達はいつ参りますの。」
「来月には。」エステルバッハ伯はいった。
「きっと、素敵な晩餐会になりますわ。皆様もお気に召すと思いますわ。」姫は晴れやかな顔をした。
 


楽士達がやってきた。
リーフェンシュタールの宮廷そのままの、粋な出で立ちであった。典雅な楽の調べ、吟遊詩人の語る古の物語、マルガレーテ姫は、その優雅な雰囲気を満喫した。詩人がゴートベルグ公を讃える詩を作った。珠玉の言葉にちりばめられた雅なできである。マルガレーテ姫は嬉しかった。公も喜んでいるに違いない。しかし、公は表情も変えず、短い労いの言葉をかけただけだった。
「お気に召しませんの?」姫は小声で聞いた。
「ああ、私はおべんちゃらは嫌いなんだ。」公は露骨にいやな顔をした。「へどがでそうになる。」
姫の顔を見て、流石に公もばつの悪い顔をした。姫は、ヘルマン一世の半生に思いをはせた。諸国を渡り歩き、文字通り戦場に寝起きした傭兵時代、ゴートベルグ公国のためセシリア・ヴァルバラ姫とともに戦いに明け暮れた日々。ゴートベルグ公夫妻には宮廷文化を育てる余裕など無かったのだ。そのことを、自分は考えもしなかった。姫は、今まで公に対してとった態度を思うと申し訳ない気持ちになるのだった。
 
ゴートベルグ城に帰ったその夜から、マルガレーテ姫は高熱を出した。
熱に魘されながら、姫は自分が情けなかった。もし、自分が死ぬようなことがあれば、どんな風評が立つだろうと思うと、公に対し申し訳ない気持ちで一杯になるのだった。今は死ねない。その気力だけで、姫は持ちこたえているようだった。
「どうだい。ピエール。この話、どう思う?」
金髪碧眼のいかにも貴族的な顔立ちの青年が声をかけた。
「そうだなあ。」
ピエールと呼ばれた青年は、ソファーから起きあがると、部屋を歩き出した。部屋といってもかなり広く、ホールといってもいいそこには肖像画が何枚も掲げられていた。その肖像画を見ながら、ピエールは、少し考えていたようだが、おもむろに口を開いた。
 

ある日、友人がこんなことを話しました。
「昔々、ある小国に、高貴な身分のあるお姫様がおりました。しかし、ある時、領土問題で隣国の親子ほども離れた王といやいやながら結婚しなければならなくなり、でも、彼女には愛を誓った身分違いの騎士がいて・・・さあ、続きを書いてみて。」

とても面白そうな設定だったので、勢いで書いたのが、この「肖像画の佳人」です。
最初は、お姫様と騎士がめでたく結ばれてハッピーエンドとしたかったのですが・・・
書いていて、正義の味方が出てこないと、話がまとまらない・・・そんな設定は面白くないし;;;
駆け落ちは?二人で異国の土地で末永く幸せに・・・・
ダメダメダメ;;;花嫁に逃げられた隣国の王様が、怒り狂って攻め込んでくる;;;リーフェンシュタール公国は本当に丸焼けになるかも;;;

それじゃあ、もう、あきらめてその王様と結婚してもらうしかない;;;
お姫様なら、お市の方やエカテリーナ女帝みたいに、政略結婚は当たり前、敵国で自分の地位を確立するのも、姫君の腕の見せ所だろうし・・・
そう考えて、楽しんで書いた初めてのロマンス小説です。
検索サイトから多くのお客様に来て頂き、本当に有り難うございました。

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