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全て、この男のせいなのだ。姫は、軽蔑の眼差しでヘルマン一世を見る。公が大貴族達を粛正したため、この国の宮廷文化は死に絶えてしまったのだ。
ヘルマン一世が、姫にささやいた。
「ロイヤル・スマイルを見せて頂きたいものですな。姫君。」
晩餐会は終わった。姫は中庭にでている。星明かりの中、堅固な石組が見える。姫はため息をついた。この城には、優美さのかけらもない。せめて、庭に花の1つでも植えようという気になる者は一人もいないのだろうか。リーフェンシュタール城の瀟洒な庭が思い起こされた。
帰りたい。帰れるはずがない。
「退屈ですかな。」公も庭に出てきた。「体が冷える。早く戻りなさい。」命令口調なのが姫をいらだたせた。
「退屈ですわ。何もかも。」
「お気に召さないようですな。」
「ええ、全て気に入りませんわ。お城も晩餐会も、」姫は、思いの丈を全て公に話した。
「私には、耐えられません。このような武張った暮らしは、」
「ならば変えてみるんですな。」姫は耳を疑った。
「よろしいんですの。あの、お庭を変えたり、楽士を招いて宴を催しても・・」
「かまいませんよ。私は、」公は、平然といった。
公の意外な申し出に、マルガレーテ姫の頭にある考えが浮かんだ。
リーフェンシュタールから楽士を招こう。そして、楽士を使って手紙をローランドに、いえ、上手くすれば、ローランドその人を・・
しかし、次の言葉は、姫に冷水を浴びせるものだった。
「姑息なことは考えない方が良い。騎士の身を案じるならばな。」
ローランドの消息を知ることはできなくても、城を自分の好みに改装できることとなり、マルガレーテ姫の心は久しぶりに晴れやかになった。彼女が改装できるのは、中庭と晩餐会の行われる広間だけだったが、それでも姫は嬉しかった。ゴートベルグ公国でも選りすぐりとの評判の庭師や大工、絨毯職人が集められ、工事が始まった。マルガレーテ姫は中庭が整備されていくのを日々眺めている。殺風景だった庭にバラの植え込みと瀟洒な東屋が造られた。小さいながら泉水もでき、優雅な雰囲気が生まれてきた。しかし、姫の希望が全て叶えられるわけではなかった。相談役にと公が指名した侍従長と姫はしばしば衝突した。警備上の問題が多いというのだ。一事が万事この調子で、ゴートベルグの騎士達の頑固さに姫は呆れた。それでも、ほぼできあがった庭を侍従長も気に入ったらしく、散策するその初老の貴族の姿を姫は眼にしていた。自分の庭を気に入ってくれた人がいる、そのことは、たった一人でこの国に嫁いだ姫にとって、心躍ることだった。
「やっとあなたの笑った顔が見られた。」公の言葉に姫は驚いた。
「怒った顔も魅力的だが、笑った顔はもっと素敵だ。」思いがけない言葉に、姫の頬が赤らんだ。
「どうしました?」からかうような口調だった。
「なぜ、私のことを気遣って下さるの?」
「当然のことだ。」公の言葉の真意を測りかね、姫は戸惑った。
「我々は、この国を治めている。軍隊でいえば将軍にあたるんだ。その二人が角突き合わせてみろ。軍として立ちゆかなくなってしまう。だから、」
「もう、結構よ!」
マルガレーテ姫は憤然と、公の言葉を遮った。この男の頭には戦いに勝つことしかないのだ。結婚生活まで軍隊と同じように考える人間がいるなど、姫には信じられなかった。
広間の様子も一変した。床に大理石が敷き詰められ、壁は華やかなタペストリーで飾られた。晩餐会では、楽士達が、リーフェンシュタールからではなかったが、招かれた。これで少しは宮廷らしくなった。公も気に入っているに違いない。そう思って姫は、ゴートベルグ公に尋ねた。しかし、公は、素っ気なくいった。
「私には、退屈だった。」
「ひどいわ。」喜んでくれると思ったのに、姫は傷ついた。
「だが、正直に言って欲しいといったのはあなただ。」
冷たい言葉、何と低俗な男だろう。姫の心は嫌悪感で一杯だった。
「あなたみたいな、出自の卑しい人が治めているからこの国はだめになったんですわ。」軽蔑しきった口調になった。
「何?もう一度いってみろ。」
「何度でも申し上げますわ。」負けずに姫は言い返した。
「傭兵上がりのあなたのせいで、ここの騎士達は優雅さのかけらもございませんわ。」
「この国の騎士がリーフェンシュタールの騎士より劣るというのか。」公は激怒した。
「ええ、そうですわ。リーフェンシュタールの騎士は礼儀をわきまえていますもの。」
「そうかな。その礼儀正しき騎士達はあなたの国を守ったのかな?しっぽを巻いて逃げ帰ったではないか。あなたの、あの最愛の騎士殿もだ。」
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太平洋戦争関係の二次創作&オリジナル小説を書いています。
また、中世~近現代のロマンス小説も書きます。